僕が阪神タイガースのファンになった美味くてつらかった理由

 

今から遡ること30数年前,僕は熱烈な巨人ファンだった.周りの友達も

皆そうであった.それは王,長島が国民的英雄のように活躍したころであり,

また僕らの町では,TV中継されるプロ野球と言えば,たまにNHKが

パシフィックりーグのゲームを中継する以外は,巨人戦しかなく,当然強い

巨人に少年たちは憧れていたのである.

そんな少年時代のころ,僕の町にも市民球場ができたのだ.そして,プロ

野球のキャンプを誘致する話が持ち上がった.僕たちは当然巨人を願ったの

だが,そんな僕たちの想いとは裏腹に阪神タイガースに決まってしまった.

その上,よせばいいのに歓迎パレードまで行われることになり,小学校の鼓

笛隊がそのパレード演奏を仰せつかったのだ.僕はその当時鼓笛隊で大太鼓

をたたいており,嫌々ながらパレードに参加したのであった.

そして,阪神のキャンプも恒例となり,毎年春には田舎の町も賑やかにな

っていった.しかし少年たちの想いは変わることはなかった.

ところが,心変わりというのは突然起こるものだ.ある年の阪神のキャンプ

のころ,数人の友だちで一人の家に遊びにいった時のことだ.実はそいつの

家は旅館業を営んでいて,タイガースの常宿だったのだ.庭で遊んでいたら,

二階から「おーい,僕たち」と呼ぶ声がする.見上げると当時の阪神の大エー

ス村山実ではないか.憎っきライバルの選手が何をするかと思いきや,「これ

みんなで食べや」とか言って,何かを浴衣の帯に結びつけて二階からおろし始

めたのだ.そしてそれを手に取ってみると,今まで見たことのないようなでっ

かい板チョコが人数分結びつけてあったのだ.その瞬間である.僕の心が変わ

ったのは.

喜び勇んで家に帰り母親に報告すると,母親は「妹にも分けちゃりなさい」

と言ったが,僕は「絶対いやだ」と断り,一人で全部食べたのだ.ほんとに

美味かった.大きさも初めてならその味も初めてのものだった.

そして,その晩,僕はおなかを壊した.あの腹痛はつらかった.だが,二度

と心は巨人に戻りはしなかった.

 余談だが,この心変わりを起こしたのは友達の中で僕一人だった.