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糖尿病診断基準(日本糖尿病学会,1999)

糖尿病は、循環器疾患ではありませんが、虚血性心臓病(狭心症、心筋梗塞)、動脈硬化、脳血管障害(脳梗塞など)の重要な危険因子の1つであり、 最近、いわゆる「生活習慣病」の代表的疾患として、その増加が著しく、社会的にも関心を集めています。 私共が徳島市内のある職域集団における耐糖能異常者の頻度を調査しましたところ(日本糖尿病学会旧診断基準)、 糖尿病は7.8%、境界型は42.5%で、50.3%に耐糖能異常が発見されました。 一見、元気に勤務している一般社会人の1/2に耐糖能異常があることは極めて注目するべき結果です。

この糖尿病の診断基準が世界的に見直される機運にあり、我が国においても日本糖尿病学会が委員会を設けて検討を行い、 1999年5月、新しい診断基準を発表しました。詳細は同学会の発表を御覧頂きたいのですが(糖尿病 5月号,1999)、 以下に日本糖尿病学会 糖尿病診断基準検討委員会の「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」の私が抜粋した要点と委員会報告の要約全文を御紹介します。

「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(1999)」の抜粋
(森 作成)

1. 糖尿病の分類(成因分類)
  1. 1型: 膵β細胞破壊
  2. 2型II: インスリン分泌低下とインスリン感受性低下(抵抗性増加)
  3. その他の特定の機序 、疾患によるもの:遺伝子異常によるもの、他の疾患、病態に伴うもの
  4. 妊娠糖尿病
2. 糖尿病の病態(病期)分類
  1. 正常領域
  2. 境界領域
  3. 糖尿病領域
    1. インスリン不要(インスリン非依存状態)
    2. 高血糖是正のためにインスリン必要(インスリン非依存状態)
    3. 生存のためにインスリン必要(インスリン依存状態)
3. 糖代謝異常の判定区分
  1. 糖尿病型: 下記の3項目の内、何れか1項目を満たす。
    1. 空腹時血糖≧126mg/dl
    2. 75g糖負荷試験 2時間値≧200mg/dl
    3. 随時血糖値≧200mg/dl
  2. 正常型: 下記の2基準を共に満たす)
    1. 空腹時血糖<110mg/dl
    2. 糖負荷試験2時間値<140mgd/dl
  3. 境界型:糖尿病型でも正常型でもないもの。
4. 妊娠糖尿病
  1. 定義:妊娠中に発症、あるいは初めて発見された耐糖能異常
  2. 診断基準:下記の3項目の内、何れか2項目を満たすもの。
    1. 空腹時血糖≧100mg/dl
    2. 糖負荷試験1時間値≧180mg/dl
    3. 糖負荷試験2時間値≧150mg/dl

〔註〕妊娠中の随時血糖≧100mg/dlの例は糖負荷試験を行う。

5. 糖尿病の診断

下記の何れかの場合に糖尿病と診断する。

  1. 下記3項目の内何れか1項目が、日を変えた2回の検査で認められる場合。
    1. 空腹時血糖≧126mg/dl
    2. 糖負荷試験2時間値≧200mg/dl
    3. 随時血糖値≧200mg/dl
  2. 糖負荷試験が糖尿病型で、下記の2項目の何れか1つを満たす場合。
    1. 糖尿病の典型的症状がある場合:口渇、多飲、多尿、体重減少
    2. HbA1c≧6.5%
  3. 過去において、上記の1.または2.の何れかが確認できたる場合。
6. 疫学調査

1回のみの検査による「糖尿病型」の判定を「糖尿病」と読み替えても良い。

7. 検診

糖尿病を見逃さない事が重要である。

8. 75gブドウ糖負荷試験判定基準(静脈血漿値,mgdl)
正常域糖尿病域
空腹時
2時間値
<110
<140
≧126
≧200
75gブドウ糖
負荷試験の判定
両者を共に満たす者を
正常型とする。
何れかを満たす者を
糖尿病型とする。
正常型にも糖尿病型にも属さない者を境界型とする。

〔註〕

  1. 糖負荷試験で正確な判定を得る為の条件
    1. 糖質150g異常を含む食事を3日以上摂取した後、早朝空腹時にブドウ糖75g、あるいはそれに相当する糖質を250naisi50gの溶液として経口負荷しする。
    2. 前日から実施までの空腹時間は10~14時間とする。検査終了までは水以外の摂取は禁止する。
    3. 検査期間は安静を保たせ、禁煙させる。
  2. 1型糖尿病が疑わしい場合は、抗GAD抗体、抗島高中性脂肪血症愛(ICA)、抗インスリン自己抗体、抗I A2抗体/ICA512抗体などを調べる。
  3. 血糖値の mg/dl と mmol/l の交換式
    血糖値(mg/dl) ÷ 18 = 血糖値(mmol/l)
  4. 75gOGTTが正常型であっても、1時間値≧180mg/dlの場合は、それ未満の者に比べて糖尿病型に悪化する危険がおおきいため、境界型に準じて経過観察する必要がある
  5. 空腹時血糖値と75g糖負荷試験2時間値による糖尿病型の頻度。
空腹時血糖
(mg/dl)
2時間血糖値
(mg/dl)
日本人人間ドックでの頻度
(n=5384)
例数%
(b)+(c) 空腹時血糖≧1267.8%
(a)+(c) 糖負荷2時間値≧22012.0%
(a) <126≧2002985.5
(b) ≧126<200751.4
(c) ≧126≧2003466.4
(a)+(b)+(c)71913.4

6. 人間ドック例における初回75gブドウ糖負荷試験の区分別にみた「糖尿病型」への移行率
(平均追跡期間: A 4年、B 5年)

空腹時血糖
(mg/dl)
1時間値
(mg/dl)
2時間値
(mg/dl)
悪化率
A(%/4年)B(%/5年)
正常型
<110
<110



<120
<120

1.3
3.2

1.3
1.9
境界型全例*
<126**
110~125***



140~199
<140
23.1
25.8
12.1
22.8
21.7
26.6

1) 「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」要約

糖尿病診断基準検討委員会(委員長:葛谷健)

概念

糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。 その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する。代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来しやすく、動脈硬化症をも促進する。 代謝異常の程度によって、無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す。

分類(表1,2、図1参照)

糖代謝異常の分類は成因分類を主体とし、インスリン作用不足の程度に基づく病態(病期)を併記する。 成因は、(I)1型、(II)2型,(III)その他の特定の機序、疾患によるもの、(IV)妊娠糖尿病、に分類する。 1型は発症機序として膵β細胞破壊を特徴とする。2型は、インスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の両者が発症にかかわる。 (Ⅲ)は遺伝素因として遺伝子異常が同定されたものと、他の疾患や病態に伴うものとに大別される。
病態(病期)では、インスリン作用不足によって起こる高血糖の程度や病態に応じて、正常領域、境界領域、糖尿病領域に分ける。 糖尿病領域は、インスリン不要、高血糖是正にインスリン必要、生存のためにインスリン必要、に区分する。 前2者はインスリン非依存状態、後者はインスリン依存状態と呼ぶ。病態区分は、インスリン作用不足の進行や、治療による改善などで所属する領域が変化する。 詳細は、本文II,3.「糖尿病の分類のための所見」を参照されたい。

診断

糖代謝異常の判定区分:糖尿病の診断には慢性高血糖の確認が不可欠である。 糖代謝の判定区分は、糖尿病型(空腹時血糖≧126mg/dlまたは75gブドウ糖負荷試験2時間値≧200mg/dl、あるいは随時血糖値≧200mg/dl)、 正常型(空腹時<110mg/dl、かつ2時間値<140mg/dl)、境界型(糖尿病型でも正常型でもないもの)に分ける。これらの基準値は静脈血漿値である。 持続的に糖尿病型を示すものを糖尿病と診断する。
境界型はADA(アメリカ糖尿病学会)やWHO(世界保健機構)のIFG(Impaired Fasting GlucoseあるいはImpaired Fasting Glycemia)と IGT(Impaired Glucose Tolerance)とを合わせたものに一致し、糖尿病型に移行する率が高い。境界型は糖尿病特有の合併症は少ないが、動脈硬化症の危険は正常型よりも大きい。

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病の定義は「妊娠中に発症、あるいは初めて発見された耐糖能異常」とする。 診断基準として日本産科婦人科学会栄養代謝問題委員会(1984)の基準(空腹時≧100mg/dl、75g糖負荷資金1時間値≧180mg/dl、 2時間値≧150mg/dlのいずれk2点をみたすもの)を採用する。 糖尿病型を呈する者は糖尿病として扱う。スクりーニング検査として、妊娠中の随時血糖≧100mg/dlであれば、糖負荷試験を行うことを勧める。

臨床診断
  1. 空腹時血糖値≧126mg/dl、75gOGTT2時間値≧200mg/dl、随時血糖値≧200mg/dlのいずれか(静脈血漿値)が、別の日に行った検査で2回以上確認できれば糖尿病と診断してよい。 血糖値がこれらの基準値を超えても1回だけの場合は糖尿病型と呼ぶ。
  2. 糖尿病型を示し、かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できる。
    1. 糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
    2. HbA1c≧6.5%
    3. 確実な糖尿病網膜症の存在
  3. 過去において上記1.ないし2.の条件が満たされていたことが、確認できる場合は、現在の検査結果にかかわらず、糖尿病と診断するか、糖尿病の疑いをもって対応する。
  4. 診断が確定しない場合には、患者を追跡し、時期をおいて再検査する。
  5. 糖尿病の臨床診断に際しては、糖尿病の有無のみならず、成因分類、代謝異常の程度、合併症などについても把握するように努める。
疫学調査

糖尿病の頻度推定を目的とする場合は、1回の検査だけによる「糖尿病型」の判定を「糖尿病」と読み替えてもよい。なるべく75g糖負荷試験2時間値≧200mg/kgの基準を用いる。

検診

糖尿病を見逃さないことが重要で、スクリーニングには血糖値をあらわす指標のみならず、家族歴、肥満などの臨床情報も参考にする。

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