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当院実施の各種検査の意義

睡眠ポリグラフ検査(睡眠時無呼吸症候群)

1.睡眠時無呼吸症候群とは

最近、新幹線の運転手が勤務中に居眠りをして、停車するべき駅で停車せずに通過して社会問題となりました。 これは運転手が「睡眠時無呼吸症候群」であったためです。この病気は、突然死の原因としても広く知られています。 その有病率は全人口の1~2%と言われていますので、日常臨床でしばしば認められる普遍的な病気です。従って、 習慣性の強い「いびき」をかく人、日中に強い眠気を訴える人、肥満している人、扁桃腺・アデノイドの肥大がある人などでは、 本症候群の可能性を考えて睡眠ポリグラフ検査を受けることをお勧めします。

2.睡眠時無呼吸症候群の危険性

睡眠時無呼吸症候群は、突然死の他にも下記のような種々の病気に罹りやすいことが警告されています。

疾患・事故罹患率
高血圧2倍
心筋梗塞4倍
脳血管障害4倍
交通事故7倍

3.睡眠時無呼吸症候群の定義

1) 睡眠時無呼吸とは

睡眠時における10秒以上続く喚起停止を睡眠時無呼吸といいます。

2) 睡眠時無呼吸症候群とは?

7時間の夜間睡眠中に、少なくとも30回以上の10秒以上続く無呼吸が、REM睡眠期のみならず、non-REM睡眠期にも認められる病態をいいます。

4.睡眠時無呼吸症候群の3型

睡眠時無呼吸症候群は、中枢型、閉塞型および混合型の3型に分類されます。 中枢型とは、脳幹呼吸中枢の機能低下により起こり、鼻・口の気流の停止と共に胸腹部呼吸運動の停止を認めます。 他方、閉塞型は扁桃肥大・肥満などで起こり、鼻・口での気流停止を認めますが、胸腹部の呼吸運動は認められます。 混合型は、両者の混在を認める病型です。下図に中枢型および閉塞型の鼻・口での気流と胸・腹壁の呼吸運動記録を模型的に示します。

中枢型
閉塞型

5.睡眠時無呼吸症候群の症状

下記のような症状を示します。

  1. 睡眠中の無呼吸発作
  2. 睡眠中の体動異常
  3. 起床時の頭痛
  4. 昼間の傾眠・夜間の不眠
  5. 記憶力・集中力の低下
  6. 抑鬱
  7. 遺尿
  8. 突然死(不整脈)
6.睡眠時無呼吸症候群の増悪因子
  1. 肥満
  2. 高齢
  3. 上気道疾患:扁桃・アデノイド肥大、小顎症、鼻中隔湾曲、鼻閉
  4. 肺疾患
  5. 内分泌疾患:末端肥大症、甲状腺機能低下症、閉経
  6. 神経金疾患:Shy-Dragger症候群、脳梗塞
  7. 心疾患
  8. 薬剤性:眠剤、安定剤、アルコール等
7.睡眠時無呼吸症候群の診断

本症の診断は、上記の症状がある例に遭遇した場合は、増悪因子の有無に注意することにより比較的容易に診断できますが、 確実な診断のためには睡眠時ポリグラフィー記録により、診断基準に合致した無呼吸発作があることを確認することが必要です。 集団調査などで、本症候群のスクリーニングの目的には、下記のEpworthの調査票を用います。総合点が11点以上の場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いと判定します。

項目点数
1. 座って読書をしている時0,1,2,3
2. テレビを見ている時0,1,2,3
3. 人が沢山いる場所で、座って何もしていない時(会議中、映画館など)0,1,2,3
4. 車に乗せてもらっている時0,1,2,3
5. 午後、横になって休憩している時0,1,2,3
6. 座って誰かと話をしている時0,1,2,3
7. 昼食後、静かに座っている時0,1,2,3
8. 運転中、渋滞や信号待ちをしている時0,1,2,3

この表における点数の付け方は下表の判定基準によります。

0点
決して眠くならない。
1点
まれに眠くなる。
2点
時々眠くなる。
3点
眠くなることが多い。

下図は、睡眠ポリグラフ記録用のフクダ電子製携帯型睡眠ポリグラフ(Sleep Tester)を示す。

8.睡眠時無呼吸症候群の実例
症例25歳、男性
主訴頻発する睡眠時無呼吸発作
現病歴 3年前から急に体重が増加し、昼間も居眠りが多く、労作時に呼吸困難を感じるようになった。 その頃から睡眠中の「いびき」が著明となり、睡眠中は「いびき」と「無呼吸」が交互に出現するようになった。 1回の無呼吸発作は約30秒で、チアノーゼが出現する。夜間、無意識に布団の上に座っていることもある。
生活歴・現症 たばこ40本/日、ビール1本/日。身長 167cm、体重86kg、BMI=31、肥満度41%。
高度の扁桃肥大を認め、慢性扁桃炎の状態で、咽頭腔の80%が肥大した扁桃により閉塞している。さらに漏斗胸の合併もある。

下図は本例の胸部X線写真である。側面図において明らかな漏斗胸が認められる。

下図は本例の胸部CT写真である。漏斗胸とそれに起因する心臓の圧迫された状態がよくわかる。

本例は睡眠時のポリソムノグラフィーを実施し、REM睡眠期のみならず,non-REM睡眠期においても無呼吸発作の頻発を認めた。 下図はREM睡眠期に認められた睡眠時無呼吸発作の記録である。

下図は、睡眠中の動脈血酸素飽和度と心拍数の連続記録である。無呼吸発作時に動脈血酸素飽和度が減少し、そのため心拍数が増加し、覚醒している。 このような動脈血酸素飽和度低下時ないし心拍数増加時などに脳出血、脳梗塞、不整脈などの発作が起りやすい。

9.睡眠時無呼吸症候群の治療

下記の諸項目について総合的に治療する。

  1. 体重調節
  2. 扁桃・アデノイド肥大の摘出
  3. 禁煙
  4. アルコール・原因薬剤の中止
  5. 経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)

上表の1~4により治癒する例が多い。しかし、何らかの理由により1~4の方法で治癒しない例、 あるいは1~4の治療法が実施し難い例では経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)が有効である。 これは睡眠時に鼻孔に装着したマスクを介して、持続的な陽圧を加え、気道の開放を意図する方法で、非常に有効な方法である。

経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)の際に使用する装置および本療法による治療の実際を下図に示す。

経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)の奏功機序を下図に示す。

CPAP療法の適応基準を下に示す。

  1. 下記の基準をすべて満たす例
  2. 無呼吸、低呼吸指数が40以上で、下記2.の項目を満たす例。
    1. 無呼吸・低呼吸指数≧20
    2. 日中の傾眠、起床時の頭痛などが強く、日常生活に支障がある例
    3. 睡眠ポリグラフィー上、頻回の無呼吸が原因で睡眠の分断化、深睡眠の著しい減少を認め、CPCPによりこれらが改善する例

註:無呼吸・低呼吸指数とは、1時間あたりの無呼吸数・低呼吸数をいう。

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