今日の一冊

8月29日:メトロポリス
ロートン博士は自分の手で生きた細胞を作り出す研究をしていたが、行き詰まっていた。 そこに太陽の大黒点がおこり、その影響で人造人間ミッチィが誕生した。姿は天使のようだが、悪魔のような超能力を持ち、その力を悪の秘密組織レッド党がつけねらう。 そしてついに、ミッチイの人間への反逆が始まる・・。
この漫画史上に残る名作は、昭和24年の作品ですから、今から50年前の作品ということになります。 50年たった今でも、そのアイデアはすばらしく、色あせていません。 読んでいてわくわくします。
この中で一番印象に残るキャラクターは、ロボットのフイフイです。 出てきたと思ったら、ヒゲオヤジを助けて、すぐに溶けて死んでしまいます。なんと哀れな・・。 この物語の習作である「幽霊男」では、「人造人間プポ氏」として出演しています。 プポ氏は目も鼻もない顔で、表情がないので非常にシュールな印象で、その分フイフイよりも強烈な印象を与えています。 それに比べてフイフイは、目と口らしきものがあり、表情があります。
この「メトロポリス」アニメ映画化が進行中とか。そうなったら、ミッチイがどのように描かれるのかというのも興味がありますが、個人的にはフイフイに興味があります。できればフイフイでなくて、プポ氏を出して欲しい、などと思うのであります。
1月29日:とんから谷物語
心優しい少女・サナエ。だんだんとたくましくなり、やがては動物たちのリーダーとなっていくリスのジロ。人と人間の心の交流を通して、自然と人間の共存のあるべき道を考えさせられるお話です。
とてもとても悲しいお話です。ここまでしなくてもいいのに、と思うくらい、サナエの身の上には不幸が次から次へと襲いかかります。よくもまあ、これだけ不幸が重なって、きれいな心でいられるものだなぁなどど、妙なところで感動してしまいます。おそらく、「不幸な少女大会」では優勝するでしょう。
これは講談社の手塚治虫全集の400巻完結に当たる記念すべき本です。
思えば、この全集も長く続きましたね。1977年に第1期創刊された時はまだ中学生でした。当時はなかなか手が出せなくて、全部買いそろえるなんてのは不可能でした。あれから20年以上、よく続きましたね。この全集も初版本はだいたい1000円位の値段で売られているようです。でも、わざわざ高い初版本を買わなくっても、注文すれば定価で新しいのを取り寄せてくれるから、その方がいいと思うけど・・。全集にもまだまだ未収録のものがあるみたいです。もうそれらの話はお目にかかれないのでしょうか?
11月13日:ボンバ!
男谷少年が憎しみを爆発させたときに、幻の馬「ボンバ」が現れ、次々に人を殺し、街を破壊していくのであった。彼は人を、両親をも信用できず、裏切られ、決して心を開くことはなかった。
これもとっても暗いお話です。救いようがないです。ラストの1ページでなんとなく明るい未来への兆しが見られますが、それがなければなんとも陰惨で、悲しいですね。
手塚先生のお得意の悲劇とはまた違い、本当に暗いです。暗い話好きの読者にはとってもお勧めです。劇画がブームの時期の作品だから、そういう影響もあったのでしょうね。暗い暗いといいながら何となく惹かれるのは、人の心の中をえぐるように描き出している、この作品の魅力なのでしょうね。
また、ボンバというのは馬ですが、他の作品に出てくる手塚流の動物と違い、無表情で、かわいげのない馬です。でも、逆にこの無表情で感情のないくせに、いやに存在感のある動物を描くことができるというのは、やっぱり手塚先生の画力があってこそのものでしょう。
11月3日:アポロの歌
近石昭吾は本当の愛を知らずに育った少年であった。そして愛し合う姿を見ると、破壊的な行動を起こしてしまうのであった。その罪として神は、永遠に解き放されない運命を与えた。死んで再び生まれ変わろうとも、ひとりの女を愛し、結ばれぬ恋をするであろうと。これは、時代を超えて様々な愛の形を描いた作品です。
なんとなく、火の鳥の雰囲気に似ています。輪廻転生とでも言うのでしょうか・・?(ちょっとちがう?)昭吾はそんなに悪い人間なのでしょうか?彼が悪いというより、彼が育った環境が悪いのだと思います。そう考えると、人間は誰しも一つや二つ、何らかの罪を背負っているのではないでしょうか。
一つ一つの話は短いのですが、それぞれがどれもすばらしい、そして悲しいお話で、本当に手塚先生はよくこれだけ一つのことから次々とアイデアが浮かぶものだなと感心してしまいます。でも、描かれた時代のせいか、雰囲気は暗いですね。そういえば、同じ頃に「アラバスター」とか「ガラスの城の記録」とか、暗い作品がたくさんありますね。(私はこういう暗いのも好きな方ですが・・)
「手塚作品の中でどれが一番暗いか?アンケート」でもとったら面白いかもね。
10月25日:どろろ
水木しげるを中心とした妖怪ブームにあやかり、手塚先生が描いた妖怪ものです。「どろろ」というタイトルながら、百鬼丸の方が人気があり、主人公のようです。いわば、百鬼丸の人生のストーリーを、どろろの視点から描いたものかな?
手の中にある刀はコブラのサイコガンの元祖でしょう。初めてみたときは、とても新鮮で、強烈なインパクトがありました。
手塚先生の時代物というのはいろいろありますね。「百物語」というのも大好きです。「火の鳥」の異形編なんかも同じような系統でしょうか。とにかく、ああいった数奇な運命といったシチュエイションとか雰囲気にとても魅力を感じます。どろろはその後どういう人生を送ったのだろうか?百鬼丸は自分の体を無事取り戻したのだろうか?取り戻したとしたら、それから何をして生きるのだろうか?いろいろ気になって仕方がないです。
テレビ版の「どろろ(どろろと百鬼丸)」が今度LD化されるそうです。これはまたぜひ買わねばなるまい。でも、放送禁止用語などがあるらしいから、原盤のまま収録されるかどうか、ちょっと心配です。
10月14日:フライングベン
これは、超能力を持つ犬・ベンと、タダシ少年の友情を中心を中心に描かれた冒険物語です。ベンにはウルという弟と、プチという妹がいます。ウルとベンは性格が正反対でいつも対立し、プチはその間に入って心を痛めています。ベンとウルは、一度は仲を取り戻すのですが、しかし・・。
最初は、タダシとベンの冒険活劇的なストーリーが中心でしたが、それよりも悪役であるウルの生き様に心を引かれます。ベンのような生き方のできない、純粋だけど不器用なウルの姿が、とても魅力的です。
この物語に限らず、手塚先生の描く動物というのは、大変美しいですね。ジャングル大帝なんかもそうですが、とにかくあの流れるような曲線がとても美しい!気持ちのいい線というのは、こういうのを言うのでしょう。自分で絵を描くときでも、気持ちのいい線を描きたいなといつも思っています。で、自分で気持ちのいい線が描けたと思ったときは、なぜか手塚先生のタッチに似てしまうのです。困ったもんだ。
9月14日:ビス・ビス・ビス星ものがたり
これは、書き下ろしのSFファンタジー絵本です。
ビス・ビス・ビス星に住む人にはみな大きなしっぽがあります。お金持ちや偉い人は大きくてふさふさしたしっぽを、貧しい人たちは小さくてみすぼらしいしっぽを持っているのです。そこへ地球からロケットに乗って、井上博士が親善使節としてやって来ることになりました。すると、しっぽのない地球人に下等に思われないように、国民全員しっぽをかくそうとするのですが・・。というお話です。
手塚先生の絵本は、この他にもいくつか出版されておりますが、これはその中でも古い方に入るのではないでしょうか。絵本と言っても、フルカラーのページは少なく、あとは白黒か2色カラーとなっています。また、コマ割りの枠線はありませんが、マンガ作品のようなレイアウトになっています。内容的にも、人権問題を考えさせられる非常に奥深いテーマが潜んでおり、教育現場で教材に使用すればいいのではとも思います。
実はこの本、存在は知っていましたが見たことなく、先日大阪の「まんだらけ」に行ったときに見つけて購入いたしました。定価は1000円でしたが、5000円で売ってました。「まんだらけ」には初めて行きましたが、とってもいいですね。でも、手塚本はみな高くて、おいそれとは手が出ません。徳島で古本屋巡りをしても、絶対にお目にかかれないような本が、ガラスケースに値札を付けられて並べられています。あんなの、見るだけでドキドキして、とても体に悪いです。おかげで、お金を貯める目標ができてしまいました。いつかは、手塚先生のカラー原画を自分の部屋に飾りたいなっと!!!
9月3日:W3(ワンダースリー)
W3は銀河宇宙連盟から地球人を調べるために来た3人の宇宙人です。動物に姿を変えて地球人を調べ、もし地球人が良い人間ならそのまま残し、悪い人間なら滅ぼしてしまうのです。
この作品は、とにかく中身が濃いです。ボッコ、プッコ、ノッコというキャラクターも新鮮ですし、星真一という主人公の名前もどこかで聞いたような名前です。テンポの早い展開の中に、見事に当時の世界の社会的な問題点を描き出し、子どもにもわかりやすく表現しています。また、ストーリー展開も絶妙で、ストーリーのあちこちに複線があり、ラストのどんでん返しで思わず感動してしまいます。またそれどころか、一つのSF作品として見ても、そこらのありきたりな小説なんかより遙かに上等の部類と言えるでしょう。とにかく、最初にこれを読んだ後には、感動の嵐が体中を駆けめぐっていたのを憶えています。
先日、W3のLDボックスパート1を購入いたしました。原作と違い、1話完結式なので、それはそれなりに楽しめます。TVで放映されてた時は当然見てません。再放送も知りません。だから、全く新鮮な形で見られました。昔の虫プロの作品は、やっぱりオープニングが絶妙ですね。今の量産アニメよりもよっぽどすばらしいです。それに、1話ずつの内容が非常に濃いです。W3の第1回分のストーリーなら、今のアニメなら1ヶ月くらいもたすでしょう。動きが悪い分、中身で勝負なのですかね。それは白黒の鉄腕アトムにも言えますね。よく鉄腕アトムと狼少年ケンが比較されますが、PerfecTV!でやってたのを見た限りでは、動きは狼少年ケンの方が少しいいですが(今見るとそれほどいいとも思えないけど・・)、内容はアトムの方が断然いいですね。
それと、ちょっと前に少年マガジン版のW3も発売されましたね。読み比べてみたらなんか面白いですね。解説にあの有名な「W3事件」のことが書いてあるので、それもとても興味深かったです。
8月27日:きりひと賛歌
これは、モンモウ病と戦う、一人の青年医師のドラマです。
モンモウ病というのは一種の風土病で、顔や体が犬のように変化していくという恐ろしいものです。で、その患者が大量発生している場所が犬神沢村というところで、なんと徳島県にあるのです。作品中に「徳島県三好郡祖谷地方 犬神沢」とあります。出てくる風景は、なんとも山奥で、まさに秘境という感じです。昔、手塚先生が徳島大学の大学祭に講演にいらっしゃいました。そのころ私は高校生で、ちょうど土曜日だったから、授業が終わって汽車に乗って蔵本の大塚講堂まで行ったのを憶えています。その講演の中で、「昔、医者になるか漫画家になるか迷っていたとき、徳島の山村で医者の口がある、というので誘われたことがあり、もしそうなったら今でも徳島で医者をして、漫画家にはなってなかった。」というような内容の話がありました。そういう体験が、アイデアのヒントになったのかもしれません。
まあ、どういう形にせよ、徳島県が手塚作品に重要なポイントとして出てくるのは、誇らしいことです。
8月20日:ブラックジャック「てるてる坊主」
これは、ブラックジャックの数ある話の中でも一番お気に入りの話です。
ブラックジャックには他にもたくさん好きな話はあるのですが、こういうBJの人間味を出した作品が好きですね。もともとブラックジャックというのは、冷酷な金の亡者というイメージで描き出したものですが、人気が出るにつれ、読者が勝手にブラックジャックは本当はいい人!というイメージを作ってしまい、こうなったようです。
私の子供の時期というのは、虫プロが倒産し、手塚先生はヒットが出せなくなり、ブラックジャックで復活するちょうどその間のブランクの時期でした。そういう意味でも、ブラックジャックは手塚旋風をリアルタイムで体験するチャンスでありました。
ブラックジャックはまだ単行本未収録の作品が八つくらいあるそうなのですが、たぶんそれらはもう見ることはできないでしょう。残念です。
1996年の秋にブラックジャックの劇場用映画が公開されました。観ましたか?いろいろと批判もあったようですが、あれくらい出崎・杉野コンビの個性が出てたらいいと思います。中途半端に原作に似せようとして、本当に中途半端の出来になってしまった手塚原作アニメがありますが、それらの没個性的な迎合作品よりもよほどすばらしいと思います。オリジナルビデオの「マグマ大使」は、目が点になった・・。
加山雄三版の実写ブラックジャックというのもありましたね。あれはさすがに多くの批評と同じように、私もいただけませんな。


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