CT/MRIの読み方  その2

簡単な中心溝同定法 ― thick-thin sign ―

   医療法人 成美会 鈴江病院 脳神経外科  七條文雄

original                     公開:2008/3/9 → 最終更新日:2014/11/4


このページの内容は、徳島県理学療法士会広報誌『酸橘(すだち)』通巻29号 p.33-36, 2008. に掲載されたものを一部変更したものです。

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はじめに

 『その1』では、脳の基本的解剖と生理、CT画像の基本、種々のCT画像について、解説した1)。この内容は、現在、下記のインターネットのホームページでも公開しているので、参照していただきたい。(URL: http://www.nmt.ne.jp/~shichijo/CT/CT.html)

 本稿では、著者が愛用している中心溝の簡単な同定法(裏技)を紹介する。

 大脳皮質では中心溝を境に前方には運動系が、後方には感覚系が位置し、機能的には中心溝に近いほどその働きは単純であり、中心溝から離れるにつれ連合野的となりより高次の機能へと分化している。これらの機能は、さらに前方は前頭連合野である前頭前野へ、後方は頭頂連合野へと移行している。したがって、CTやMR画像の判読においては、この中心溝の位置を同定することは、非常に重要である。

 

1. 既報の種々の同定法の紹介

1) 上前頭溝と中心前溝を利用した方法

 上前頭溝は、前頭葉において大脳縦裂の1本外側を前後に走る脳溝であり、中心前溝は、この上前頭溝に連続して、後端でやや鋭角に折れ曲がる脳溝である。この中心前溝が同定されれば、その後ろの脳溝が中心溝となる2)(図1)。

図1: 同定法の紹介1(左右は同一画像)

2) 手の運動野の形状(precentral knob)を利用した方法

 Yousryら3)は functional MRI を用いて手の運動野を検討し、MRIでの手の運動野は中心溝が形成する逆Ω構造もしくはε構造の前方にみられる膨らみ(precentral knob)に存在すると報告している(図2)。この、precentral knob(中心前回の一部)がみつかれば中心溝も同定できる。

図2: 同定法の紹介2

3) 帯状溝辺縁部を利用した方法4)

 図3で示されているように、MRI矢状断の正中部では中心溝は見えずに、帯状溝と帯状溝辺縁部が観察できる(A,B)。C,D(同一画像)において矢状断像で示される帯状溝辺縁部を意識してその横断像をみると正中部(大脳縦裂部)に帯状溝辺縁部が見つかる。この帯状溝辺縁部の前には中心後回が位置し、この前の溝が中心溝となる。

図3: 同定法の紹介3

 

2. 著者の愛用している簡易同定法 — thick-thin sign

 表1は、中心前回と中心後回の厚さ比の検討したものである。CT(284例)およびMRI(162例)の横断像から中心前回と中心後回の厚さを計測し両者の厚さの比をみてみると、446例において例外なく中心前回の厚さは中心後回の厚さ以上あり、その平均は右半球で1.47、左半球で1.46であった。すなわち、CTやMRIでの中心溝を含む横断面においては、中心前回の厚さは厚く(thick)、中心後回の厚さは薄く(thin)なっている。このthick-thin の関係をもっている脳回が同定できると、その間にある脳溝が中心溝となる。著者はこの同定法(裏技)をthick-thin signと名付けて愛用している(図4)。

表1: 中心前回/中心後回の比の検討

 

図4: Thick-thin sign (thick=厚い、thin=薄い)の紹介

 著者は1990年頃よりこの特徴に着目して中心溝の読影を行ってきたが、文献的には、Naidichら5)が1996年に、中心前回に比し、中心後回は厚さが薄い傾向にあり、この特徴を利用して中心溝が同定できるとして、これをthin postcentral gyrus signと報告している。呼び方が、何れであっても、この方法(裏技)により中心溝の同定は非常に容易となるため、是非利用していただきたい。

 

3. 種々の中心溝同定法の検証

 図5は、今回紹介した4種の中心溝同定法をまとめたものである。

 図6は、MRIの連続画像データから、図上段の矢状断像で示された角度で再構成表示された中心溝近傍の横断像を示している。上述の種々の方法で中心溝の同定を試みていただきたい。

図5: 各種中心溝同定法

C: 上前頭溝と中心前溝による方法 

D: precentral knobによる方法

E: 帯状溝辺縁部による方法 

F: thick-thin sign (thin postcentral gyrus sign) による方法

 

図6: 連続画像データから再構成された種々の角度での中心溝近傍の横断画像(矢印が中心溝)

 

4. 応用編: 各種症例での検討

1) 成人例での検討

【症例1】 82歳、男性。バイクで走行中に自動車と接触し転倒。ヘルメットの着用あり。受傷当日は、左下肢に単麻痺がみられた。

 受傷時のCT(図7)では、右中心前回(下肢の運動野)に脳挫傷による脳内血腫を認めた。 

図7: 受傷直後のCT像

 

【症例2】 74歳、男性。右手の麻痺で発症した心原性脳塞栓症(図8)。発症4ヶ月経過後も右手に限局した麻痺と知覚障害を認める(図9)。

図8: 発症時のMR拡散強調画像と発症4ヶ月目のCT画像(手の運動野であるprecentral knobと感覚野である中心後回に脳梗塞を認める)。

図9: 発症4ヶ月目の神経症状

  

2) 小児例での検討

 図10は種々の理由で、撮像された小児のMR画像である。成人例と同様に中心溝の同定が可能であった。

図10: 小児のMR画像(下段は、中心溝に矢印を表示)

おわりに

 今回は、中心溝の同定法を簡単に紹介させていただいた。この中心溝同定法の詳細と、運動野と感覚野に関する詳細は、脳神経外科学大系1『神経科学』6)にて解説させていただいているので、そちらを参照していただきたい。

応用編   New! (2008/3/11)

 MRIの連続動画(QuickTime版)で中心溝同定を試みて下さい。 → QuickTimeでみる、MRI画像の連続表示

参考文献

1)    七條文雄: CT/MRIの読み方 その1. 徳島県理学療法士会広報誌「酢橘」 23 : 2-9, 2004.

2)    Kido DK, et al. Computed tomographic localization of the precentral gyrus. Radiology 135: 373-7, 1980.

3)    Yousry TA, et al. Localization of the motor hand area to a knob on the precentral gyrus. A new landmark. Brain 120 : 141-57, 1997.

4)    Naidich TP, Brightbill TC. The pars marginalis, II: a "bracket" sign for the central sulcus in axial plane CT and MRI. Int J Neuroradiol 2: 3-19, 1996.

5)    Naidich TP, Brightbill TC. Systems for localizing fronto-parietal gyri and sulci on axial CT and MRI. Int J Neuroradiol. 2: 313-38, 1996.

6)    七條文雄 : 運動系と感覚系. 脳神経外科学大系1 「神経科学」 中山書店, : 214-241, 2006


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