動的変化率二次元脳電図(dynamic deviation ratio topography)の有用性    English

徳島大学医学部脳神経外科
七條文雄、堀江周二、高瀬憲作、岡田 順、上田博弓、松本圭蔵


<EEG TOPOGRAPHY 1991:pp25-40(発行:東京女子医大麻酔科学教室)> に掲載済み

はじめに


 近年、二次元脳電図の統計学的な処理手段としてDuffyら4)により、z statistic significance probability mapping (z statistic SPM) ならびに t statistic SPMが提唱され、臨床応用が試みられている。このSPMは、非常に有用な処理方法であるが、主として標準値との相違度の判定を目的としたものであり、一個人での脳波変化には対応していない。ところが、脳波はもともと個人毎に独自のパターンがあり、外部環境・内部環境の変化により時間と共に変動しているものである。我々は、同一個人で同一環境における脳波(二次元脳電図)には再現性があることに着目し、独自の脳波変化の判定法として変化率二次元脳電図 deviation ratio topography (DRT) という手技を考案した6)7)。また、DRTの経時的変化をリアルタイムで連続的に観察する手段として dynamic DRTを開発し臨床応用を行っている7)。今回、このDRTの原理と臨床応用に関し報告する。


対象と方法

1.対象

 脳神経外科の手術では、その手術操作中に一時的に局所の脳の血流遮断を余儀なくされることがある。例えば、頚動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy: CEA)での、内頚動脈の一時血流遮断、血管内手術での頭蓋内・外主要血管の一時血流遮断などがあげられる。このような一時的血流遮断による脳機能の変化を脳波記録から経時的にモニターする手段としてdynamic DRTを利用している。

2.方法
1)脳波記録

 脳波は、国際式10-20システムにおける16の部位(Fp1, Fp2, F3, F4, C3, C4, P3, P4, O1, O2, F7, F8, Fz, Pz, T5, T6)に記録電極を設置し、両耳朶の電位の平均値を基準電極とした基準電極導出法にて記録した。

2)変化率二次元脳電図(DRT)の原理

 同一個人で同一環境における二次元脳電図パターンには再現性があることから、一個人における安静時脳波の等価的電位を各記録電極別・各周波数帯域別に計測し、個々の平均値(X)と標準偏差(SD)を求め、これを基準値とする。この基準値に対する各種負荷後の等価的電位の増減(m)を変化率として求め、二次元脳電図化したものがDRTである(Fig.1)。

Fig. 1: The logic of deviation ratio topography (DRT).
The formulas of logarithmic deviation ratio topography (log DRT) is shown.

 変化率算出には、2種の方法をとり、両者を比較検討した。

a) percentage DRT(% DRT)

 変化率として百分率を採用したもので、変化率には下記の式を利用した。
% deviation ratio =((m-X)/X)× 100 

b) logarithmic DRT(log DRT)

 変化率として対数を採用したもので、変化率には下記の式を利用した。
logarithmic deviation ratio = log(m/X)

3)dynamic DRTの記録

 dynamic DRTは、専用のソフトウェアDRT systemにより作成される。このDRT systemは、signal processor 7T18(日本電気三栄)に付属したプログラム言語であるsignal BASICを用いて作成されたものである。
 dynamic DRTでは、経時的変化は一定の時間毎(8・20・30・60秒から選択可能)に表示され、最長98分間の連続記録が可能である。分析可能周波数帯域は、δ・θ・θ1・θ2・α・α1・α2・β波まであり、このうち任意の4帯域がDRTとして選択表示できる。実際の記録中には、経時的変化が折れ線グラフとして、各時点での空間的変化が変化率二次元脳電図として同時に刻一刻と7T18の画面に表示される。折れ線グラフでは、左右半球別の変化率の平均値が各周波数別に連続的に表示され経時的な脳波変化が容易に把握できる。また、この折れ線グラフ上に、種々の負荷の開始・終了の時点がマーカーとして縦の破線で入力できる。

4)統計学的有意差検定

 統計学的に有意な変化はコントロール群での標準偏差(SD)を参考にして判定された。経時的記録の折れ線グラフでは、標準偏差の2倍値の範囲を示す上下2本の破線で、変化の有意性が判定される。二次元脳電図表示においては、±2SD以上に変化が見られた部位の電極マーカーを消去することにより、有意な変化の出現部位を認識できるようにした。
 これらの実際は臨床例で呈示する。


結果

1. % DRT と log DRTとの比較

 変化率として、百分率を利用すべきか、対数を使用すべきかを検討した(Fig.2)。
 たとえば、安静時データの平均値Xを100と仮定すると、等価的電位が2倍に増大すれば200となり(x1)、2分の1に減少したときには50となる(x2)。また、理論的な最大値(Max)は+∞、最小値(Min)は0となる。これを%DRTとlog DRTの式に代入して検討してみた。最大値、2倍値、半減値、最小値はそれぞれ、%DRTでは+∞、100、-50、-100となり、log DRTでは、+∞、log 2、-log 2、-∞となった。
 したがって、%DRTでは、増加値の過大評価、減少値の過小評価という傾向がみられた。これに対し、log DRTでは、増加率と減少率が同等に評価できた。

Fig. 2: Percentage deviation ratio (% DR) vs. logarithmic deviation ratio (log DR). There is a tendency for % DR to underestimate the decreased values (see text for explanation).

 次に臨床例を1例提示する。

症例:58歳 男性 外傷性右頚動脈海綿静脈洞瘻

 血管内手術中に、バルーンカテーテルによる右内頚動脈の一時遮断試験を行い、この時の脳波をDRTにて分析した(8秒毎に経時的に評価)。DRTでは、右内頚動脈の血流停止により、著明なδ波の増加、右半球のα1波の減少が観察された。
 Fig. 3は、%DRTの再生画像で、画面左に% ratioによる全経過(縦破線は血流遮断時点と再開時点を示す)が左右半球別、周波数帯域別に折れ線グラフで表示されている。DRT systemでの実際の画像表示では、この折れ線グラフ上を縦の実線のカーソルが左から右に自動的に移動し、その時点のDRTが画面右にdynamic DRTとして表示される(Fig. 3は、血流遮断後9〜16秒の変化が表示されている)。

Fig. 3: % DRT. In the delta band, an extreme increase of % DR is appeared in both hemispheres during the test occlusion of the right carotid artery. While, in the alpha 1 band, a focal decrease of % DR appeared in the right parietal area. (See text for further explanation.)

 Fig. 4は、log DRTの再生画像で、画面左にはlogarithmic ratio による全経過が表示され、画面右にはFig. 3で示された時点のDRTが log DRTとして表示されている。この、%DRT と log DRTの比較においては、α1波の減少はlog DRTで明瞭に捉えられていた。

Fig. 4: Log DRT. The increase pattern of delta band is the same pattern as that of % DRT. While, in the alpha 1 band, a wide decrease of log DR is appeared in the right hemisphere. (See text for further explanation.)

 本症例は、臨床的にも内頚動脈の一時血流遮断により一過性の意識障害と片麻痺がみられたため、治療はdetachable balloon catheterを使用し、内頚動脈の血流を温存した形で瘻孔の閉塞術がなされた。

2. DRT記録の実際

 次に、log DRTによる術中モニターの実際を紹介する。
症例:70歳、男性。右内頚動脈狭窄症
 一過性脳虚血発作(TIA)で発症し、脳血管撮影にて上記診断のもとにCEAが施行された。

1)コントロールデータの作成

 麻酔が安定した時点でコントロールデータを入力する。通常は内頚動脈の一時遮断試験直前の脳波を利用している。本症例ではDRT表示間隔を20秒としたために、コントロールデータは、20秒毎に採取された脳波データ10回分の平均値により作成された(Fig. 5)。

Fig. 5: EEG topographies of the control data of DRT system are shown.

2)内頚動脈試験遮断前のDRT

 Fig. 6 は、20秒毎に記録されたdynamic DRT表示画面を示す。内頚動脈の試験遮断までは2SD以内の安定した記録が得られている。

Fig. 6: Dynamic DRT. There was no significant change before the test occlusion of the right carotid artery. (See text for further explanation.)

3)内頚動脈試験遮断中のDRT

 Fig. 7は、右内頚動脈の試験遮断後1分目のdynamic DRTを示す。経時的表示の折れ線グラフでは、内頚動脈の試験遮断(縦破線)により、有意に右半球を中心に電位の低下が観察された。画面右のDRTでは、空間的変化が明瞭に表示され、各周波数帯域ともに右半球を中心として電位の低下がみられた。また、2SD以上に変化がみられた部位の電極は消去されて表示されるために、空間的変化の統計学的な有意性も視覚的に認識できた。

Fig. 7: Dynamic DRT. A significant decrease of log DR appeared in the right hemisphere in all bands during the test occlusion of the right carotid artery. (See text for further explanation.)

4)内頚動脈遮断解放後のDRT

 Fig.8 に右内頚動脈の試験遮断終了後のDRT表示画面を示す。画面左の経時的表示での2本目の縦破線は内頚動脈の血流再開時の時点を示したものである。本例では血流再開と共に脳波は正常パターンへと変化している。

Fig. 8: Dynamic DRT. The significant changes disappeared gradually after the recirculation of the right carotid artery. (See text for further explanation.)

5)Barbiturate療法の併用

 本例では、脳保護の目的でbarbiturate 療法を併用した。Barbiturate療法後は、広範な電位の低下があり、以後モニターとしてのDRTは利用できなかった。しかし、脳波自身はburst and suppressionをみることによりbarbiturateの維持量のモニターとして利用できた。
 脳虚血のモニターとして、我々は、短潜時体性感覚誘発電位(SSEP)のN13とN20の経時的記録も行っている。この例では、内頚動脈の試験遮断により、N20も平坦化がみられた。通常の治療濃度のbarbiturateでは、SSEPのN20の波形は維持できるために、barbiturate療法後の脳虚血のモニターは、SSEPで行った。
 本例では、術中脳虚血に対する保護手段としてt-tube による内シャントとbarbiturate 療法を併用し、術後、なんら神経脱落症状はみられなかった。


考察

1. DRT systemの有用性

 脳神経外科の手術では、一時的に局所の脳の血流遮断を余儀なくされることがある。このような一時的血流遮断により、症例によっては重篤な臨床症状を呈するものから、なんら症状のみられないものまで様々であり、術中の安全性の確保のためには何らかのモニターが要求される。
 局所麻酔下の血管内手術では、このような一時的血流遮断による神経脱落症状は電気生理学的にも臨床症状からも捉えることができる。これに対し、全麻下の手術においては、臨床症状の確認ができないために電気生理学的モニターがより重要となる。一般に、CEA時のモニターとしては、通常の脳波1)3)、コンピュータ処理脳波(鳥瞰図)2)8)、SSEP5)などが利用されてきた。これらのモニターによっても、経時的な変化を捉えうるが、ほとんどの報告例が数チャンネル以内の記録であり、大脳全体の機能を反映しているとはいいがたい。また、対照となるコントロールデータとの変化を、即座に捉えることは非常に難しい。
 理想的な脳波変化のモニターとしては、大脳全体の変化を捉え、経時的変化、局所変化(空間的変化)、周波数帯域での変化などを一体として把握し、これらの変化を客観的に評価できることが要求される。この点、二次元脳電図による記録では、術前に多数の電極を装着する煩雑さはあるが、大脳全体の変化をモニターすることが可能となる。しかし、通常の二次元脳電図によるモニターでは、コントロールデータ自体の二次元脳電図に左右非対称があることも多々あり、各周波数帯毎の画像パターンも異なっている。したがって、これらのコントロールデータを全て認識した上で経時的に変化する脳波を視覚的に瞬時に判定することは不可能といえる。この点、各コントロールデータを基準として表示されるDRTでは、背景脳波のパターンに関係なく、DRTとしてのmappingは均一な画像として表示されるために、局所変化が生じると即座に視覚的に発見できる。これらの変化は、DRT表示画面では、経時的変化としても空間的変化としても表現され、これに2SDという境界線を設けることにより変化の有意性も加味して評価することが可能となった。

2. %DRTとlog DRTとの比較

 理論的にも、実際の臨床例でも、% DRTによる表示では、増加値の過大評価、減少値の過小評価がみられた。これに対し、log DRTでは、増減の比率が正負で均等に表現されるためにmapping に適し、現在では変化率として logarithmic ratioを採用している。

3. z statistic significance probability mapping (z statistic SPM)4) との相違点

 DRTでの、コントロールデータは同一個人の安静時の脳波の平均値をもとに作成される。z statistic SPMでは、年令・性別等に応じて標準化されたデータがreference set として基準となり、この基準パターンと個人のデータとの相違度がz scoreとして検定され、この結果がmapping化される。使用目的においては、DRTは、同一個人における、経時的・空間的な脳波変化を捉えることを目的としており、SPMは、標準パターンとの相違を見つけることを目的としている。その他の相違点としては、DRTでは、リアルタイムでの経時的な記録が可能であるが、現在の商品化されているSPMのソフトウェアでは、経時的記録ができない点があげられる。

4. dynamic DRTの臨床応用

 dynamic DRTは、大脳機能をみるための様々な経時的脳波モニターとして臨床応用できる。例えは、術中モニター、アミタールテスト(和田法)時の脳波モニター、過呼吸負荷や睡眠負荷時の脳波モニター、大脳高次機能負荷時の脳波モニター、さらには薬剤投与負荷後や手術後の脳波評価などにも応用できる。


結論


 
本手技により、種々の負荷により変化する脳波を、経時的にも、空間的にも、周波数帯域別にも、統計学的な有意差をもって、リアルタイムで評価することが可能となった。


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お知らせ:

DRTは、徳島大学脳神経外科で独自に開発されたソフトウェアです。シグナルプロセッサー7T18、 DP1000、DP1100で使用できます。このソフトウェアをご利用ご希望の方は下記までご連絡下さい。


連絡先: 七條文雄
     E-mail: shichijo@nmt.co.jp


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