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近年、コンピュータの技術の発展により我々が扱う医療機器の発達にも目を見張るものがある。ファンクショナルマッピングもこの様な背景のもとに発達してきた。
ファンクショナルマッピングを扱うには、まず検者が大脳機能局在を熟知している必要がある。またファンクショナルマッピングからみると、その画像が中枢神経系の機能の変化に対応した画像であり、かつ定量的客観的評価が可能な画像であることが望ましい。今回、この観点から我々が日常行っている検査法を紹介する。
神経系の基本単位はニューロン(神経元)と呼ばれ、神経細胞体・軸索・樹状突起からなる1個の神経細胞から構成される。このニューロン間の情報伝達にシナプスが存在し、これらが集合して、各種神経系が構成される。こうして構成された、神経系はその機能より中枢神経系、末梢神経系および自律神経系に分かれる。生命体としての統合的な働きを維持するためには、これらの神経系を介して常に情報伝達が行われ、その行動が統括される。このニューロンからニューロンへの情報伝達はすべてシナプスを介したニューロンの電気活動として伝達される。この電気活動をとらえたものが誘発電位であり、脳波記録である。
中枢神経系の代表的構造として、大脳、小脳、脳幹があげられる。機能面からみると、大脳は、人間としての思考と行動の中枢であり、小脳は、運動機能の調節中枢、脳幹は、意識と生命の維持中枢といえる(図1)。
大脳を外部構造からみると、左右に左半球と右半球があり、それぞれ、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉に分けられ、前頭葉と側頭葉の間の内側に島が存在する。その機能局在を図2に示す。概念的にみると、中心溝より前は、運動と行動の制御を、後ろは感覚と知覚情報の分析を司っているといえる。また、左右でみると、左半球は優位側、すなわち、言語・算術・理論等を主たる役割とし、右半球は非優位側、すなわち、音楽・幾何学・発想等を主たる役割としている(図3)。
大脳の知覚・運動野の機能を冠状断でみると頭部を下に、下肢を上に向けた逆立ちの格好となり、中心溝を境にして前に運動野が、後ろに感覚野が存在する11)。
脳の電気活動を経時的な波形として捉えたのが脳波である3)。視察による脳波の判読には、長年の経験を必要としたが、この脳波をより客観的に頭皮表面の電位活動として平面的に等電位図で表示されたものが二次元脳電図(EEG topography)である21)。
探査電極として国際式10ー20電極配置法に基づき、12〜16個の電極が前後左右均等に配置される。図5に、16チャンネル時の電極配置部位を示すが、このうち電極でカバーできない部位(A,B,C,F,G,H,K,L,M)の電位は近傍の電極の電位から数学的補間式で算出される。
左中頭蓋窩くも膜嚢腫例における二次元脳電図の1例を図6に示す。脳波では、F3およびF7で電位の低下が観察されるが即座にこれを判読するには経験を要する。さらに、この低電位が脳波のどの周波数帯域で著明であるかに関しては詳細な解析を必要とする。これを二次元脳電図で表示すると、左側頭葉前部において電位の低下がみられ、さらにこの電位低下はδ波からβ波帯域まで全帯域でみられることが視覚的に容易に判別される。
この様に二次元脳電図を用いると、脳波の各周波数帯域の成分分布の把握、左右差の有無の判読、異常部位の検出、CT・MRI等の画像診断との対比などが容易に可能となる。
二次元脳電図の応用例として、誘発電位の波形や脳波上の棘波(spike)の電位変化を経時的に動画として二次元脳電図で表示させたものがdynamic topography 12)13)である。この手技を棘波解析に応用したものが spike voltage topography (SVT)とよばれている5)16)20)。本法により棘波のダイナミックな変化が経時的かつ空間的に容易に捉えられる。図7は、左側頭頭頂部皮質下出血術後にてんかん発作を合併した67 歳男性例である。左側頭葉後部(T5)に棘波を有し、この棘波の頂点時のSVTが表示されている(A)。この電位分布からニューロコンピュータ法を利用して双極子の位置が求められる1)(B)。この情報をMRIの画像と併せて検討すると、棘波焦点は陳旧性病巣の前壁に位置することが想定できた(C)。
二次元脳電図は脳波を利用したfunctional mappingの代表例であり、CTやMRIはanatomical
mappingの代表例といえる。この両者の合成をパーソナルコンピュータを利用して試みた17)。
図8は、脳波の電極装着部位(16ch)にマーカーを置き、撮影した三次元MRI画像と、二次元脳電図を対比したものである。MRIは立体図であり、二次元脳電図は、頭皮上の電位分布が平面的に展開された平面図である。この両者は、あたかも地球儀と地図との関係に相当する(図9)。したがって、この両者の画像上での電極位置には相異があり、単に両者を重ね合わせるのみでは、適切なfunctional-anatomical
mappingは得られない。そこで、パーソナルコンピュータにて簡易立体頭部モデル(図10)を作成し、このモデルの頭皮上に二次元脳電図画像を脳表にMRIの画像をはりつけて合成を試みた。図11はその作業工程を示したものである。図12は、左前頭葉神経膠芽腫例における短潜時体性感覚誘発電位(SSEP)記録時のN20の電位分布をみたものである。上段は右正中神経刺激による記録を、下段は左正中神経刺激による記録を立体視用に表示したものである。左右の黄色の点はN20の双極子の位置を示しており、左側は腫瘍により後方に偏位している。立体視でみると、双極子の位置とN20の電位分布の位置関係が明瞭に把握できる。
Duffyらにより統計学的有意差に重点を置いた二次元脳電図表示法である有意性確率マッピング(significance
probability mapping: SPM)という手法が報告されている4)。SPMには、2群間の比較を目的としたt-statistic
SPM(図13)と、基準群と個々のデータとの比較を目的としたz-statistic SPM(図14)との2種の方法がある。
われわれは、1984年に同一個体における脳波の経時的変化を客観的に評価するソフトウェアとして変化率二次元脳電図(deviation
ratio topography: DRT)という手技を考案し14)、その臨床応用を試みてきた15)19)。 図15にDRTの基本原理を示す。まず、安静時脳波の等価的電位の平均値(control
data: X)と標準偏差(SD)を、各記録電極別・各周波数帯域別に求め、これを基準値とする。この基準値に対する各種負荷後の等価的電位の増減(measured
data: m)を変化率 log(m/X)として求め、二次元脳電図表示したものがDRTである。
このDRTとSPMの相違点は、DRTは、脳波モニターを目的に開発されたためon-line上でリアルタイムに経時的な連続表示が可能であるが、SPMは統計学的なデータ処理を目的として開発されているために、リアルタイムでの経時的連続表示ができない点である。
70歳、男性。右内頚動脈狭窄症(図16)に対して行われた頚動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:
CEA)の術中モニタリングを示す。CEAではその操作中に内頚動脈の一時的遮断を必要とし、その際の安全性をDRTによりモニターしている。図17は、右内頚動脈の血流遮断前・試験的遮断中(3分間)・血流再開後の脳波変化を示したものである。血流遮断中には、わずかに電位の低下傾向を認めるも、即座にその局在性を判定することは困難である。
図18は、実際のDRTによるモニター画面を示したものである。DRTの画面左半分には、左右半球別の変化率の平均値が各周波数帯域別に折れ線グラフで表示され、これにより経時的な傾向が簡単に把握できる。画面右半分には、設定された時間ごとにその時点のDRTが各周波数帯域別にリアルタイムで表示される。本例では、右内頚動脈の血流遮断により右半球を中心としてδ波とα1波の有意な電位低下が観察され、実際の手術では脳虚血予防の目的で内シャントチューブの使用と術中barbiturate療法の併用がなされた。
次に、アルコールと喫煙の脳波変化をDRTにより観察した例を紹介する。
44歳、男性。ブランデー80mlを2回飲酒させ、この変化をDRTにて観察した。分析周波数帯域はα波領域とし、1Hz毎に解析した。DRT画面左では、前頭部と後頭部の経時的脳波変化をモニターし、DRT画面右では、空間的脳波変化をモニターした。本例では、アルコールにより、α波の遅い成分(8-9Hz)が前頭後頭ともに増加し、α波の速い成分(10-11Hz)は後頭部で低下することが観察された。
38歳、男性。5分間の喫煙によるα波の変化を同様にDRTにて分析した。本例では、タバコを口にくわえるのみでは脳波に著変はみられなかったが、喫煙開始直後よりα波の遅い成分(8Hz)が前頭後頭ともに低下し、α波の速い成分(10-11Hz)は前頭後頭ともに増加してきている。
この様に、種々の条件負荷により時間的に変動する脳波を同一個人においてモニターするには、その空間的変化、経時的変化、各周波数帯域での変化をいかに視覚的に客観的に表現できるかが重要となる。DRTは、各周波数帯域毎に経時的・空間的変化が、1画面で同時に表示され、上記条件を満足した有用な脳波モニターシステムといえる。
まず、脳波の電極の空間分解能は2cmである点に留意する必要がある。次に、二次元脳電図の画像がいくら詳細にみえても通常の二次元脳電図の情報は、5×5のマトリックスの情報であることを認識しておく必要がある。図21は、MRIの画像情報を128×128のマトリックスから5×5のマトリックスまで段階的に変化させて画像表示したものである。16chで記録された脳波情報は、まさに5×5のマトリックスの情報である。図22は、MRIの画像情報を5×5のマトリックスの情報に変換し、これを、二次元脳電図の装置で再表示したものである。二次元脳電図を判読する上で、この二次元脳電図表示されたdataと5×5のマトリックス表示のdataとが全く同じである点を常に認識しておくべきである。
この限界を克服するために、Gevinsらは124チャンネルの二次元脳電図記録を試みている7)(図23)。しかし、本法では電極装着の煩雑さ、その分析には大容量のコンピュータを必要とするなどの問題点を有している。
脳神経外科での術後に重篤な運動麻痺が出現するか否かは、その患者の退院後の日常生活に大きな影響を与える。特に大脳の運動野近傍の脳腫瘍や脳動静脈奇形などの摘出手術においては、中心溝の同定が特に重要となる。また、手術においては、限られた開頭範囲の中で病変により偏位した中心溝を視覚的に同定することは非常に難しい。この中心溝の同定のために術中皮質SSEPが利用される18)。
図24にSSEPの記録模式図を示す。SSEPでみられる波形の中でN9は上腕神経叢、N13は延髄後索核近傍、N20は第一次大脳感覚野にその発生源があると考えられている。
このN20を利用して、中心溝を同定することができる。図25は、白金電極が一列に配置されたシリコンプレート電極による皮質SSEPの術中記録を示したものである。皮質SSEPでは、中心溝を境として波形に極性の逆転がみられ(図26)、これにより中心溝が同定される。
1985年、Barkerらにより大脳運動野を頭蓋外より磁気刺激し、手指筋より運動誘発電位(motor evoked
potential: MEP)を記録する方法が考案された2)。次にこの被刺激部位を限局させ、さらに刺激の方向性を持たせる方法として8の字型コイルが開発された22)。この8の字型コイルを用いることにより、5mm の分解能で経頭蓋的に運動野を磁気刺激することも可能となっている6)(図27)。
脳の機能を画像化するその他の手法として、脳磁図(MEG)、ポジトロンCT(PET)、MRIを用いる方法などが近年開発されている。(脳磁図によるファンクショナルマッピングの解説は、Ali
R. Rezai M.D. : Neurosurgery Chief Resident, NYU Medical Centerのホームページを参照。)
図28は、H2 15 O-PETにより両側眼球運動時の局所脳血流変化をみたものである8)。画像は3-D
MRI画像(C)とH2 15 OによるPET脳血流画像を合成したもので、(A)は、安静閉眼時のもの、(B)は、点灯された光源の反対側へ両眼を移動させたときのものである。この両者をサブトラクション(B-A)したものが(D)であり、前頭運動眼野および後頭葉内側の第一次視覚領に血流の増加が認められる。
図29は、痛覚刺激と運動負荷刺激のfunctional MRIを示したものである9)。左は、正中神経の電気刺激により、右は手の運動負荷により賦活された部位をT1強調画像に重ね合わせて表示されたものである。知覚刺激では、運動負荷時よりも後方の脳回に賦活部位がみられ、その間に中心溝が存在する。
電気生理学的観点からみたファンクショナルマッピングを中心に解説した。この分野の業績はここ数年の間にめざましく発展、進化してきている。したがって今後さらに新しい概念による新しい手技が現れてくることも充分に予想される。ひとつの方向としては、機能面から捉えたfunctional
mappingと解剖学的構造から捉えたanatomical mapping、この両者を共に表現することができるfunctional-anatomical
mapping が今後大きく発展していくことが予想される。
Clinical application of Dynamic deviation ratio topography. (English)
2. Signal BASICによる棘波加算平均法のソフトウェアの開発 (Japanese)
A new software for spike analysis with signal averaging technique. (English)
access No.= (H18/8/15-)
【アクセスカウンター故障のためH18/8/15にリセットしました】