ホタテウロからの重金属除去



ホタテ貝の生産は、北海道が世界に誇るホタテ貝栽培漁業の成果である。ホタテ貝の栽培に伴う多くの課題、例えば貝毒など、は関係者の努力によって解決されてきた(西浜雄二、オホーツクのホタテ漁業、北海道大学図書刊行会、1994年)。しかし、ホタテ貝中腸腺に含まれる重金属の問題は未だに解決されていない。 ホタテウロから重金属を除去することを目的として、作田らはホタテウロの硫酸浸漬ー電気分解法を検討し、ホタテウロに含まれるカドミウムの量を0.72mg/kg乾燥重量に低下させたと報告している(作田庸一、富田 恵一、若杉 郷臣、藤島 勝美、村上英穂、斎藤 弘、北海道立工業試験場ホームページ、1999年)。現在、この方法を用いてホタテウロのリサイクル施設が2カ所建設され、実用化に向けた検討が行われている。 ホタテ貝の消化器官である中腸腺には重金属、特にカドミウムが含まれており、その含有量は100ppm/kg乾燥重量前後にも及ぶ。その他、亜鉛が100ppm前後、銅が30ppm程度含まれる。ホタテ貝の中腸腺にカドミウムが含まれる現象の原因については明確な研究がなされていないが、ホタテ貝が餌として摂取する微生物類にカドミウムが含まれており、それらのカドミウムがホタテ貝の中腸腺に生物収着(biosorption)されたものと推定される。この場合、カドミウムの大部分は、中腸腺を構成する細胞の細胞壁の外側にある糖蛋白質に吸着されたままの状態で存在しており、細胞内にCdメタロチオネインとして存在するカドミウムの量はごく僅かであると考えられる。このような状態で中腸腺に収着されたカドミウムは、中腸腺を酸で処理することにより除去されるはずである。例えば、下水汚泥微生物の生体高分子に生物収着された重金属は、リン酸処理によって容易に除去することができる(S. Yoshizaki and T. Tomida, Environ. Sci. & Technol., 34, 1572-1575 (2000))。 当社では、ホタテウロ(中腸腺)をリン酸処理することにより、中腸腺に含まれるカドミウムを効率よく除去できることを見出した。中腸腺(ボイル)100kgを用いる試験では、中腸腺のカドミウム含量を0.4mg/kg乾燥重量まで低減することができた。

文献
1,特許 重金属類除去方法、特許第3245138号、特開2002−45823号。
2,論文 ホタテ貝中腸腺からの重金属除去方法、第11回廃棄物学会講演論文集、1196−1198(2000)。
3,報告 ホタテ貝中腸腺からのカドミウム除去、徳島県立工業技術センター業務報告、平成12年度、A27.

第11回廃棄物学会講演論文(一部改変)

ホタテ貝中腸腺からの重金属除去方法
環境金属研究所、吉崎司郎;徳島県立工業技術センター、渡辺忠美;大阪市立工業研究所、河野宏彰

はじめに
北海道などではホタテ貝の栽培漁業によって大量のホタテ貝が生産されている。ホタテ貝の生産に伴う多くの課題、例えば貝毒など、は関係者の努力によって解決されてきたが、ホタテ貝の中腸腺に含まれる有害な重金属の問題はまだ十分には解決されていない。 ホタテ貝加工残滓から重金属を除去する方法はいくつか検討されている。作田らはホタテウロの硫酸浸漬ー電気分解法1)によってカドミウムの量を 0.72 mg/kg 乾燥重量に低下させることに成功し、実用化を行っている2)。また、発酵によって生成する乳酸によりカドミウムを溶出する方法3)、塩酸を用いてカドミウムを除去する方法4)なども報告されている。  ホタテ貝の中腸腺には重金属、特にカドミウムが 100 mg/kg 乾燥重量前後含まれており、亜鉛 100 ppm 前後、銅 30 ppm 程度も含まれている。中腸腺にカドミウムなどの重金属が含まれる現象の原因については明確な研究がなされていないが、ホタテ貝が餌として摂取する微生物に重金属が含まれており、それらの重金属が中腸腺に生物収着(biosorption)されたものと推定される。このような状態で中腸腺に収着された重金属は、中腸腺を酸で処理することにより除去されるはずである。発表者らは、下水汚泥に生物収着された重金属をリン酸が効率よく溶出することを見出している5)。今回、この方法を用いてホタテ貝中腸腺からの重金属除去を検討した結果、中腸腺に含まれるカドミウムなどの重金属はリン酸処理によって容易に除去できることが明らかとなった。

実験方法
実験に用いたホタテ貝中腸腺は、北海道立工業試験場(作田庸一氏)、(株)北勝水産または(株)長万部北勝水産より入手した。 ホタテ貝中腸腺に含まれるカドミウムの量は、個々の個体によって異なっている。そこで、本研究ではカドミウムの量は一般的に次のようにして測定した。中腸腺に酸を加えて処理を行った後、処理液・と中腸腺とを分離し、中腸腺を遠心脱リン酸した。中腸腺に処理液と同量の水を加えて3ー5時間静置したのち水洗液・と中腸腺を分離し、中腸腺を遠心脱水した。次に、中腸腺を王水煮沸処理し、処理液・を得た。これらの・〜・液に含まれるカドミウムの量を ICP 法(Seiko SPS 1500 VR spectrometer)を用いて測定した。カドミウムの含有量は、乾燥中腸腺当たりのカドミウム重量(mg/kg, ppm)で表示した。

結果と討論
リン酸濃度の検討 ホタテ貝中腸腺からカドミウムを除去するための最適のリン酸濃度を決めるために、各種濃度のリン酸水溶液を用いてカドミウム除去実験を行った。3 - 5 mm 幅に細断した中腸腺 20 g(脱水処理して 13.7 g となる)にリン酸水溶液 100 ml を加え、24時間浸漬した。次に、中腸腺を遠心脱水し、水 100 ml を加えて3時間放置した後、ウロを遠心脱水して王水煮沸処理した。リン酸処理液、水洗液、王水処理液中のカドミウム含有量を測定して中腸腺に含まれるカドミウムの総量を算出し、リン酸処理によるカドミウム除去率を決定した。表1に示すように、0.1 % リン酸ではカドミウムが幾分残存したが、0.3 % 以上のリン酸によって中腸腺のカドミウムは十分に除去された。中腸腺のカドミウムはこのように低濃度のリン酸で除去されることから、カドミウムは弱い結合を介して中腸腺内部の消化管壁に収着されていると考えられる。

表1
リン酸濃度の検討(重金属含量:ppm):順に、リン酸濃度、処理液中Cd量、水洗液中Cd量、処理後中腸腺Cd量、Cd総量、Cd除去率(%)を示す。
0.1 %;61.2、24.9、21.4、108、80。
0.3 %;60.3、6.6、3.33、70、95。
0.5 %;89.6、6.4、0.61、97、99。
1 %;113、10.1、0.79、124、99。
2 %;87.8、7.7、0.70、97、99。
2.5 %;75.2、6.9、0.41、83、99。
5 %;102、8.6、0.89、112、99。
10 %;80.6、7.3、1.14、89、99。
20 %;84.9、7.6、0.46、93、100 。
重金属含量 (2例, ppm) : Cd, 81.3, 134。                                              

他の陽イオンとの関連
 リン酸によるカドミウム除去を達成するためには、リン酸によって同様に除去される他の重金属などの関与を解明しておく必要がある。中腸腺に含まれる、リン酸と結合する元素としては亜鉛、銅、カルシウム、鉄が検出された(表1)。各種濃度のリン酸で中腸腺を処理した後のこれらの元素の含有量も表1に示す。これらの元素の中でカルシウムはカドミウムの約10ー50倍量、鉄は約7倍量が含まれており、リン酸を大量に消費するのでこれらは処理液のリン酸濃度を規定する要因である。亜鉛は約 100 ppm 含まれており、カドミウムよりも除去されやすい傾向を示した。 一方、銅はカドミウムよりも除去されにくく、pH依存的にリン酸で溶出される傾向を示し、20 % リン酸ではその大部分が溶出された。このことは中腸腺に含まれる銅はその大部分がシステイン銅チオレートとして存在していないことを示しており、下水汚泥5)の場合と異なっている。ホタテ貝中腸腺には元々システイン含量が少なく、このことが影響していると考えられる。

処理方式の検討
 ホタテ貝の加工残滓は、ボイルした中腸腺だけのもの、貝柱だけを採取除去した生のものなど様々な形態で発生している。このような多様な物体から安定的にカドミウムを除去して肥料(Cd含量 5 ppm 以下)あるいは飼料(Cd含量 2.5 ppm 以下)として有効利用することを目指すためには、中腸腺カドミウムの残存量を1ppm以下程度にする処理条件を設定することが必要であると考えられる。中腸腺のカドミウム含有量は 100 - 200 ppm にも及ぶこと、中腸腺は広大な表面積と空隙を持つ消化管を含むこと、などの厳しい条件を克服してカドミウム含量を目標値以下に調製するためには、処理系外にカドミウムを除去しながら処理を行うことが必須条件であろう。 種々の条件下で中腸腺を処理した結果、処理後の中腸腺カドミウム含量を低減させるためには処理液量を増すこと、処理液を入れ替えてカドミウムを除去すること、などが有効であった。これらのことは、処理液中の遊離リン酸濃度を高く保つこと、あるいは処理液中から陽イオン(カドミウム、カルシウム、鉄など)を除去することがカドミウム除去のために有効であることを示している。            実用化技術 処理液中に溶出するカドミウムを強酸性陽イオン交換樹脂で除去する方式を検討した。中腸腺 100 g に各種濃度のリン酸 700 ml を加え、20度C、 500 - 700 rpm で撹拌し(中腸腺は殆ど動かない程度)、処理液をイオン交換樹脂カラムに循環させた(循環速度約 5 L/ hr)。経時的に中腸腺6粒を採取・脱リン酸し、水洗無しで王水処理してカドミウム残量を測定した。結果を表3に示す。 1 - 5 % リン酸で処理した場合、カドミウム含有量(約160 ppm)は24時間で1 - 3 ppm に低下し、さらに水洗処理することによって 1 - 0.55 ppm となり、所期の目標を達成することができた。 次にこの方法を用いてキログラム 単位の中腸腺のカドミウム除去処理を行った。中腸腺 5.2 kg(カドミウム含量約40 ppm)に 1 % リン酸 15 L を加えて48時間処理液循環ーイオン交換処理を行い、遠心脱リン酸処理のみでカドミウム含有量 1.0 ppm の中腸腺 5.1 kg を得た。また、脱カドミウム処理後の中腸腺を遠心処理せずに水洗するだけでカドミウム含量は0.63 ppm となった。

表2
処理液循環法:順に、12時間後、24時間後のCd残量(ppm)を示す。
0.1%;79.7、32.2、4.41(48時間後)
0.2 %;57.5、26.9、6.79(36時間後)
0.3 %;45.6、7.87、4.94(30時間後)
0.5 %;20.0、5.74
1 %;11.2、3.03、1.90(30時間後)
1 %;17.6、2.85 、1.00(24時間、水洗)
2.5 %;5.37、1.10、0.27(24時間、水洗)
5 %;3.48、1.33

まとめ
  ホタテ貝中腸腺をリン酸で処理することにより、そのカドミウム含有量を1 ppm 以下に調製することができた。今後、本法の実用化と脱カドミウム化中腸腺の飼料・肥料化を検討する予定である。

文献
1、作田庸一ら、北海道立工業試験場ホームページ、1999年。
2、作田庸一ら、第10回廃棄物学会研究発表会講演論文集、1122-1124(1999年)。
3、北海道工業技術研究所ホームページ、1999年。
4、境博成、水野直治、東京農業大学農学集報、1999,44, 201-208.
5、Yoshizaki, S.; Tomida, T., Environ. Sci. Technol., 2000,34, 1572-1575.